講義準備

今年度、私は首都圏の某大学でカナダに関する講義を1コマ、非常勤講師として担当している(カナダのフランス語圏を研究している研究者です)。日本の大学で教壇に立つのは今年が初めてなので、授業準備は毎週1から取り組むことになる。前期は博論と並行してたから(今もだけど)本当によくやったなという感じ。


先週は創立記念日でお休みで実にラッキーだったのだが(1コマの休みがどれほど心身ともに楽なことか!)、当然のことながらまた来週からは講義が普通にある。


それで次週の講義準備を始めたのだけど、どうしようかなーと迷っている。次回とその次はカナダの政治を扱う予定。実は私はもとは政治学専攻で、学部も修士も政治学科出身。つまり一番の得意分野。それゆえにこそ、迷っている。


非常勤先の大学の学生たちは、学力でいえばすごくいいわけではない。しかしすごく悪いわけでもない。そして素直で真面目。言ったことは言われた通りにやってくれる。ただそれがミソで、言ったことは文字どおり言ったことしか伝わらないので、自分で修正したり考えたり発展させたりというのはあまり慣れていないみたい。


だから私は、知識の伝授というだけでなく、なるべく本質的理解が伴うような講義にしたいと考えてる。つまり、カナダ政治とは立憲君主制、議院内閣制、連邦制という3つの原理から特徴付けられます、ということをさらっと言うだけではきっと馬耳東風の運命に合うので、立憲君主制とは何か、議院内閣制と何か、連邦制とは何か、を掘り下げる必要がある。もっと言えば、それらの定義だけでもダメで、立憲君主制であることがどういう意味を持つのかといったことから始める必要があるだろうなあと。

オタワの連邦議会。手前の真っ白い大地は凍ったオタワ川。

2013年3月撮影。


政治に限らず、物事を理解する認識枠組みを体得してほしい。飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える授業にしたい。


博論の修正にあたって、数日前に指導教授から言われたのは「中学生にも理解出来る書き方を心がけろ」ということ。今(大学院生として)所属している研究科は学際的なところなので、異なる専門分野の人にもそれ以上の説明が不要となるよう丁寧に事細かにわかりやすく書くということを心がけよと言われたのだ。これは講義でも同じだなあと。もちろん履修生のレベルを推し量りつつ、だけど。でも今年度のこの講義に関しては当てはまるなあと思った。(ちなみに履修生のレベルは毎週のリアクションペーパーをきちんと書かせれば大体わかる)


とりあえず、今の構想。

政治制度の本質的理解のための枠組みはこんな感じかな?というアイディア。


-国家元首(国家を対外的に代表する存在)が誰か?君主(王)か否か。 

 →君主制/共和制


-君主の場合、その君主はどの程度の力を持っているのか?

 →専制君主/立憲君主


-いない場合、その国家元首(この場合、すなわち大統領)はどのように選ばれているのか?

 →任命制/選挙


-国家元首(君主であれ大統領であれ)は好き勝手できるか。できない場合、どのような制約が制約が設けられているのか。

 →議会制度、憲法、三権分立


これを軸にそれぞれの用語を説明していって、イギリス、日本(立憲君主制かつ議院内閣制の国・・・日本が立憲君主制かは留保つきだとしても)、アメリカ、フランス(国家元首が大統領の共和制国家・・・前者は首相がいないが後者は首相もいる。すなわち三権分立のあり方)あたりと比較しながらやっていけば大体カナダの政治制度を理解できるはず(Au moins, j'espère!)。


連邦制に関してはカナダの場合この比較軸ではちょっと厄介で、隣国アメリカと全然違うし、イギリスでは説明しづらいし、フランスと日本は連邦制じゃないから、ドイツとか出してもいいんだけど、とにかくどうやってわかりやすく説明するかは明日日曜日の考察課題である。


Lapin blanc et petites bestioles

"わたしたち、ここにいるわたしたちは、うさぎの毛の奥深くでうごめく蚤です。けれども哲学者たちは、大いなる手品師の全貌を目の当たりにしようと、細い毛をつたって這い上がろうとしてきたのでした" ーヨースタイン・ゴルデル『ソフィーの世界』

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